1月28日夜の、R100RS。その名をシャチという。

今晩のこと。

僕はいつもと同じように、シャチで仕事場から帰路へとつく。
途中、信号待ちで、同じ仕事場の同僚に出会い、なんならこれから食事でもしませんかと誘われる。

時間も早いし、よしいくか。
彼を後ろに乗せて、とりあえず店を探すために走りだす。

どのあたりを走っていたのか、よく覚えていない。
というよりは、通った事がある道なのか、無い道なのかもわからない。

しばらくすると、雪が降ってきた。今日は冷え込んでいたので、雪が降ってもおかしくない。
次第に雪は激しくなり、自分が走っている道路以外はすっかり白くなっていった。

「僕はこの辺でいいですよ」と後ろの同僚がヘルメット越しに突然言った。
ああそうかい、と彼を見覚えのあるトンネルの手前で降ろした。

食事に行くんじゃなかったっけ? と彼を後ろに乗せた理由を思い出しながら、別にいいか、じゃあまた明日、と。

別れ際に、「このトンネル抜けていけばいいんだよね?」と彼に訪う僕。
ニコっと笑って、吹雪の中に消えていく彼。

なんだよアイツ、と思ったが、このトンネルを抜けて ひと山越えれば我が家だ、と自分の記憶に自信があったので、暗いトンネルに入る。
クルマ2台がギリギリすれ違えるほどの狭いトンネルだ。そのトンネルを抜けると、空気がいっそう冷え込んでいた。
深夜、ヘッドライトの灯りの中は、真横に殴るように走る雪で埋まっている。その向こう、遠くに微かに見える大きな山は、真っ白になっている。

これはヤバいかも、と思った矢先、前輪がなにやらズボズボと重たい感触に填まっていった。

「あ、雪積もってる」

まずいまずい、これは無理だと、Uターンをする。
ズボズボいいながらも新雪から脱出。

再び先ほどのトンネルに入る。
トンネルの中では、何台かの対向車とすれ違った。
すれ違う度に、対向車の運転席に、シャチのヘッドライトの明かりがあたる。
みな何かの有事がおきて家路を急いでいるのか、突然の雪に慣れていないのか、運転手の表情はみな同じように青ざめて凍り付いているようだった。


トンネルを抜ける頃、大型観光バスが入ってくる瞬間だった。
バスの運転手はトンネル出口付近に来ていたmotoに気がつき、狭い入り口手前で停車して待っていてくれている。

トンネル出口、90度にカーブしている。
停車しているバスの鼻先をかわすように、そそくさとそのバスの横を抜けるmoto。
その時、後輪が縁石に積もった雪にとられ空転した。あっけなくエンストするシャチ。

焦るmoto。
気がつけばそこはもう雪は降っていない。人がスコップで除雪した程度の雪が、道の端っこで茶色くなっている。

急いで始動させなくては、と再始動の手順を頭で考える。
セルを回す。ガチャンガチャンと嫌な音がした。あ、クラッチ切ってなかった。ギアも2速に入ったままだった。
motoが抜けるのを待ってくれているバスの運転手が、じっとこちらを見ている。

改めてニュートラルにいれ、クラッチを切ってセルを回す。
辛うじてエンジンに火が入る。
バスの運転手に頭を下げて、側道に寄せられた茶色い雪を踏みつけながら、バスをかわす。

しかしどうもシャチの挙動が怪しい。後輪がボコボコいっている。
脇にあった休憩スペースのような場所にシャチを寄せたとたん、またエンスト。全く動かなくなった。
サイドスタンドを立てて、後輪をのぞき込む。

パンクしている。しかもタイヤのトレッドの真ん中にぽっかり大きな穴が空いている。
げげ。。。こりゃなんじゃ?パンクというよりは、破裂したような様。

しばらく、縁石に座って考えるmoto。

さてどうしたものかと、とりあえずタバコに火をつけあたりを見回すと、そこが中学高校の頃に住んでいた街の駅前である事に気がつく。ちなみに小田急線である。

motoは東京新宿で生まれ、小学生まで都会で育ち、中学になる時にこの街へ越してきて、高校を卒業するまで暮らした。

高校から東京の私立に通っていたmotoは、オサレな都会の友人を連れてくるには ここはダサい田舎すぎて恥ずかしいとさえ思っていた街。でもむしろ東京でウロウロするよりも、この街で遊んでいるほうが気楽で楽しかったのが正直なところ。余計なものが無く、どこでもバイクか自転車で行ける。大した娯楽施設もないので、夜は街唯一のセブンイレブンで、中学時代の友人と、お喋りにふけったりした。

その頃に比べると、駅前広場や大きく広がったロータリーなど、少しは発展しているようだった。
ここも今では都内への通勤圏内、マイホームタウンとして土地の値段も高騰し、街の税収が上がっているのだろう。
今は実家はそこから数キロ東京よりの新興住宅地にある。

古くも新しくも無い、懐かしい駅。
終電は既に終わっているようで、長く緩くカーブしたホームは暗く、静まりかえっている。
駅前通りの信号も、全て音もなく黄色で点滅している。

こんな時間にパンクした。
家にも帰れない。
どうしたものか、と2本目のタバコに火をつけようとした時に、1台の巨大な4WDがmotoの前で止まった。

「あれ?なにしてんの?」

運転席からmotoに声をかけてきたのは、今一緒に仕事をしているとあるアニメ製作会社の社長だ。
白髪交じり(正確には、あえて白髪風に染めている)、流行の黒縁メガネにピアスをして、いつも「ちーっす」と陽気なヤツ。
歳は僕よりひとつふたつ下だが、それを知っていてもなぜかタメ口、もしくは上から目線で物を言うヤツ。
この時も、パンクしたバイクの横で、ガックリと縁石に座り込んでいるmotoに、クジラみたいな米国製4WDの運転席から 「瀕死のシャチ」 を見下すように、文字通り上から目線で声をかけてきた。

「いや、ちょっとパンクしちゃって、でも大丈夫だから、行って行って」

めんどくさい、今はお前にお付き合いしている場合じゃない、これからどうやって我が家まで帰るのか、考えるだけでいっぱいいっぱいなんだ。頼むから早く窓を閉めて、その必要ないほどの爆音クラクションを鳴らして、とっとと去ってくれ。

まあ、そう願わんでも、ヤツはその通りにするだろう。

「電話してあげるよ」

予想に反して、彼はそう言ってクジラから降りてきた。
助手席からは「中の上」くらいの中途半端な容姿の若い女が降りてきて、後部座席からは会社のスタッフなのか、スーツ姿の知らない男が一人降りてきた。
motoの業界ではスーツはあまり見慣れない。なんとなく、そいつの存在に違和感を覚える。

アニメ会社の若社長は、iPhoneでピコピコしている。

「どこに電話するの?」

「知り合いのレッカー」

「いいって、それなら俺も保険でレッカーサービス頼むから」

「大丈夫だよ、俺が呼ぶから、1千万くらいかな」

「1千万??? アホじゃねーの!」

「俺が払うよ、会社で落とすから」

どう考えても高すぎるレッカー代。冗談を言っているんだと考えつつも、払ってくれるなんて実はとってもいいヤツなんなだなと彼を見直す単純なmoto(笑)

「ダメだよ、なんでこっちが払うんだよ」

突然、そのスーツ姿の男が口を出してきた。

「勝手に金使うなよ、明日もあるんだからさ」

明日、1千万が必要なのか。コイツ、どうやら経理だな。

「もう呼んじゃったよ」

若社長はiPhoneをしまい、レッカーはあと1時間くらいで来るらしいから、と。
スーツの男は、チェッと軽く舌打ちをして、そそくさと4WDに戻っていく。

「じゃあ達者でw」

と、ヤツは運転席に乗り込み、サッカーボールくらい直径のあるマフラーから爆音を響かせて去って行った。

なんだアイツら。まあ、これで家に帰れそうだから、感謝するか。
気にもしていなかったが、助手席から降りてきた美人とも不細工ともいえない女は、気がついた時にはもういなかった。

それにしても、どうしてこんなパンク、いやタイヤが避けたのだろう?
シャチのタイヤをしげしげと見つめるmoto。

「あーあ、やっちゃったね」

突然背後から声をかけられる。
びっくりして振り返ると、以前一緒に仕事をしたことがあるバイク好きで有名な俳優、××君がそこにいた。

「おー久しぶり!」

「もっちゃん、ビーエム乗ってんだあ、前はトラだったよね」

思い出した、彼は出会った日から僕を 「もっちゃん」 と呼んでいた。
彼はその頃、KTMのデューク650?に乗っていて、自宅の方向が同じだったので、よくスタジオ撮影帰りに一緒に夜の環八を練馬から用賀まで走った。ヤツは速い。アホみたいに飛ばす。今もデュークに乗っているのだろうか。

「そうそう、買い換えたんだよ、パンクしちゃってさ、そこのトンネルで」

どうやら彼は酒に酔っているようだった。
フラフラとシャチの周りを歩きながら、バイク好きが皆そうするように、前から後ろから横から、しげしげとシャチの細部を眺めている。

「いいね、このハーレー、ローライダーでしょ」

なんだこいつ。これハーレーじゃないぞ。

さっきビーエムって言ってたじゃないか。
おかしな事を言うなあと思ったが、酔っ払っているならまあ仕方ない。
R100RSが、冬のウォッカの力を借りればハーレーに見える事もあるかもしれない。

「まあね、いいバイクだよ、楽しんでる」

と、シャチのハンドルを叩こうとすると、なんとシャチがハーレーに見えた。
いや、紛れもなく、ハーレーローライダーである。

「あれ??」
「あれあれあれ???」



と、そこで目が覚めた。

時間は深夜3:00。
横では奥さんがぐっすり寝ている。


「・・・・・・・・・」


とりあえず牛乳でも飲むか。
台所へ行き。冷蔵庫を開ける。
近々に冷えた牛乳をパックのままガブ飲みする。

暗いリビング。冷蔵庫の明かりの中、牛乳パックを片手に考える。

そういや今日、帰宅してからシャチにカバーかけてなかった。

ソファに投げ脱いである長男のダウンジャケットを着込み、同じく玄関に転がっている長男のナイキのスニーカーをつっかけて外に出る。昼間も寒い1日だったが、更にグンと冷え込んでいる。

階段を降りてシャチのもとへ。
マンションの軒下で、いつもと変わらずシャチがセンタースタンドで凜として立っている。

美しいフェアリング
ストレートに後方へ伸びたサイレンサー
ジブリのメカキャラのように大げさに張り出たシリンダー

どれもが、通りの白い電灯の光を受けて、鈍く光っている。

ああ、良かった。ハーレーじゃなかった。
やっぱりコイツが好き。


カバーを広げて、シャチにかけやる。

「おい、パンクとかすんなよ」

















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by moto-rs | 2015-01-29 04:48 | 雑記 | Comments(14)

Commented by hanumaru at 2015-01-29 08:30
中の上w
そんな状況下でも品定めはしっかりとw

Commented by ヒデキノシタ at 2015-01-29 08:56 x
ローライダーが何なのか?
スボンサー、予算の都合で新車のTCだったら一気に続き観る気を失いますね。しかし、アニメ社長のクジラのメタファーならばコッチですかね(笑)ローライダーがショペルの場合、ちょっと僕の妄想は修正を迫られます。
Commented by とらきち at 2015-01-29 16:26 x
何かが壊れる夢って 新しいことの始まりの前兆なんだって・

そういえばバイクに乗ってる夢みたことないな~w
Commented by jun at 2015-01-29 18:27 x
motoさん、さすがって感じの文章力だね^^
そのまま、映画のワンシーンにどうですか?
Commented by cuisinier-blue at 2015-01-29 18:34
そういうオチですかw 嫌いじゃないです
Commented by moto-rs at 2015-01-29 22:56
hanumaruさん、そこはちゃんと覚えてますよ〜〜
Commented by moto-rs at 2015-01-29 22:57
ヒデキノシタさん、ん〜〜ぱっと見だったんで、細かいモデル名まではわからんですw
夢ってのは時間ごとに忘れていきますねー。
それっぽいタンクだったのは確かです。
Commented by moto-rs at 2015-01-29 22:58
とらきちさん、僕はよくバイクに乗った夢見ます。
でも朝までにほぼ忘れてますね。
Commented by moto-rs at 2015-01-29 22:59
junさん!お久しぶりです!お元気ですかw
夢はいつでもセンチメンタルなものなので、そのまんま書きました。忘れちゃいかんので、深夜に起きてそのまま執筆w

映画にしたら?・・・・きっと退屈で意味不明なものでしょう。
Commented by moto-rs at 2015-01-29 23:01
cuisinier-blueさん、こんにちは。
オチっていうか、夢なんで仕方ないっすw
もっと面白く脚色した方が良かったかな(笑)

例えば。。。。。

思いつかないw
Commented by jq1ocr at 2015-01-30 09:16
小説かと思いました.笑 で,ハーレーに変わってるのは,何かの伏線だと確信.そこで私も目が覚めました.笑
Commented by moto-rs at 2015-01-31 01:04
jq1ocrさん、ハーレー、なんですかね〜〜・・・・
まさか買い換えませんが、何か起こるにしても楽しいことでお願いしたいものですw
Commented by Bonnie侍 at 2015-02-01 09:56 x
読み進むにつれて、微妙に違和感を感じるあたり、夢を忠実に再現すると、こうなりますよね。
私も身近な現実がベースになった、微妙にズレた夢を見ますが、起きて数分で記憶が薄れて忘れちゃいます。
じわじわ面白かったです(笑)
Commented by moto-rs at 2015-02-01 19:50
Bonnie侍さん、長編の読破ありがとうございますw
そうそう、夢って忘れてしまうので、目が覚めてバイクにカバーかけたら即効ブログ書いた(笑)
時間軸や、位置関係、人間関係など、夢ではいつも断片的だったりで、ちぐはぐな感じ、ほんとそうです。

ギリギリ覚えている感じでしたね。もう忘れたので、こうやって見た夢を急いで文字に残しておくって、将来読み返したら意外に面白いかもですねw